「なんか最近、忘れっぽくって」
と、思っているあなた。
だれでも、忙しかったりすると「ど忘れ」や「うっかりポカ」をすることはよくあります。
しかし、
あなたが経験したすべてのことを、
あなたの脳は記憶している、
と言ったら、信じられますか？
じつは、
それは本当なんです。
ペンフィールド博士の奇妙な実験
それは偶然に発見されました。
1933年、
カナダの医師ワイルダー・ペンフィールド博士が脳外科手術を行っていた時のこと。
手術の器具が、患者の脳の一部に触れてしまいました。
その瞬間、
患者の女性が、
驚きの声をあげました。
そして彼女は、
「忘れたはずの子どもの頃の出来事を今、体験しています！」
と言ったのです。
（脳には痛みを感じる神経がないので、意識があるまま手術が行われることもあったそうです。）
それも、思い出す、というレベルでなく、
今、その場面を体験している鮮明さで、情景、音、感情までもがよみがえってきたというのです。
この出来事をきっかけにペンフィールド博士は、
人間の脳に直接電極を当てて、刺激した時の反応を調べる実験を繰り返しました。
その結果、
昔の出来事をありありと再体験する事例がたくさん報告されたのです。
ペンフィールド博士の発表は世界に衝撃を与えました。
この研究で、
人間の脳には、人生で意識したことのすべてが記録されている、
ということが明らかにされたのです。
これだけでも驚きなのですが、
さらに、
ペンフィールド博士は衝撃的な説を発表しました。
その説とは、
「心と脳は別ものである。」
というもの。
いわば科学のタブーを超えた、霊魂の存在さえも認めてしまえるほどの大胆な主張です。
しかも、世界的権威の博士が、科学的な検証を繰り返した結果を判断して導き出したのです。
ペンフィールド博士にとっても、とても勇気のいることだったでしょう。
博士によると、
『意識したことはすべて脳に記録されている。
しかし、その記憶をどう使うか、命令を下すのは「心」である。』
ようするに、
脳は精密なコンピュータで、
そのコンピュータをあやつるオペレーターが心だ、という結論に達したそうです。
私たちは漠然と「脳=心」と考える傾向があるかもしれません。
近ごろは脳科学の発展がめざましくて、感情や思考のしくみを科学的に説明できることが多くなったことも影響しているでしょう。
「心」は「脳の機能」だと説明する「唯脳論」も、一時期話題になりました。
ただ、
脳科学は発達していますが、
心の正体は何か？
というテーマには、今も結論は出ていません。
眼に見える証拠ばかり探していると、ずっと答えは出ないのかもしれません。
そんな中で、
このペンフィールド博士の大胆な主張は、数十年たっても多くの科学者や研究者にインスピレーションを与え続けています。
常識にとらわれない、自分の信念を貫いた熱意には、説得力と気迫を感じます。
ペンフィールド博士の主張から考えると、
もの覚えが悪いとか、あたまの回転がおそいとか、そんなことを気にすること自体、
あまり意味が無いように思えてきますね。
とくにデジタルの世の中がすすむほど、そんなことは機械にまかせておけばいいのかもしれませんし。
それよりも、
膨大なデータベースから記憶をピックアップする心が、
どれだけ軽くて、自由で、柔軟か、
その方が、よほど大切に思えてくるのは、ワタシだけでしょうか。
参考：「脳と心の正体」ワイルダー・ペンフィールド著 法政大学出版局
