阿波路を行く⑥ 〔赤い車が颯爽と〕

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(18番 恩心寺 → 19番 立江寺)

今日は宿の部屋から素晴らしい日の出を見ることができた。

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7時20分出発。

足の指の痛みは幾分よくなった感じだ。昨日は山道が少なく、つま先のダメージが少なかったのだろう。

今日は、十八番恩山寺、十九番立江寺を廻った後に、別格霊場の慈眼寺と灌頂の滝に行こうと思っていたが、近くの宿が一杯で予約できない。

野宿の覚悟を決めていたが、今朝、宿の主人に聞いたら、月ヶ谷温泉と言う所に大きな旅館があるらしい。そこにバスで行って歩いてきた地点まで戻って、また歩きはじめては、とアドバイスをもらった。

いったんは野宿を決意していたのだが、そういう手があるのであれば、そうしよう。

●十八番札所 恩心寺に到着

宿がすぐ近くだったので、すぐに到着。

境内への坂道を登る途中で、鐘の音が聞こえてきた。朝の鐘も、すがすがしく感じてよいものだ。

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恩山寺は本来、女人禁制のお寺だったが、弘法大師の母君が弘法大師をこの寺に訪ねられた際に、女人禁制を解いて、孝行を尽くしたとされている。

お寺の方によると、その後、母君は剃髪されて得度され、弘法大師のお弟子さんになったそうだ。親孝行の寺として知られている。

出発してから1週間、母に何も連絡を取っていないので、後で電話をしておこう。

 

十九番に向かう道は竹林から始まった。

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筍と竹の中間くらい。

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道がふさがっている所も。

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●十九番札所 立江寺に到着

一時間ほどで到着。団体の参拝と鉢合わせた。引率の人が真面目な感じで説明をしていたので、一行は黙って神妙に聞いていた。が、あまり楽しくはなさそうだった。

お参りではあるが、少しエンターテイメントも考えた方が良いのではないかと、他人事ながら思った。

 

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山門を出たところで、「ちょっとそこまで乗っけてったるわ」、と初老のおじさんが車の中から声をかけてきた。

歩き遍路が次々と通る、こんな街中で?

声の掛け方も、あまりにスムーズすぎる。顔も笑っていない。ちょっと「お接待」とは違うのかなと感じたので、ありがたくお礼を言って丁重にお断りした。

すると、あーそう、と言ってさっさと車を出して行ってしまった。どうも、何か他のもくろみがあったような気がする。

乗せた後で料金を請求しようとでもしていたのだろうか?

 

慈眼寺方面へと歩きはじめる。

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けっこう大きな道路沿いに歩く。

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歩きながら、今日の目的地をまだ考えている。慈眼寺と灌頂の滝は、通常の札所の順路から外れて、一日コースの道のりになる。今夜の月ヶ谷温泉もかなり順路から離れている。

1日余裕を持って、ゆっくりするか、どうするか、、。

 

勝浦川を渡る。

勝浦という地名は千葉にもあるが、こちらが本家と言える。

同じ地名が徳島、和歌山、千葉に多いのは、阿波の忌部一族が黒潮に流れに乗って移動し、各地を切り拓いたからと言われている。

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地元の人に月ヶ谷温泉に行く方法を聞いたところ、思っていたよりも遠かった。

バスで宿に着いてから、荷物を預けて灌頂の滝に行くのは、現実的でないことがわかった。また、日曜日なので、路線バスが12時45分と、17時52分の2便しかないそうだ。

電話で教えてもらったバス乗り場へは、急いでも12時45分に間に合うか、といったところ。乗り過ごすと5時間待ちで、中途半端になってどこにもいけなくなる。

もう、こうなったら、12時台のバスに乗って、今日は早めに宿に入ることに決めよう。今までスケジュールを詰めすぎていた感もあるので。

そう決まったら、バス乗り場まで足を速める。

聞いた場所は町の外れにある。地図にも載っていないので探す時間も考えて、できるだけ早く着かなければならない。

必死に急ぐが、バス乗り場が見つからない。

旅の始めに、急がない、というルールを決めたばかりだが、どうしても急がざるを得ないことが、たびたび出てくる。

もう12時45分だ。町を外れても、乗り場が見つからない。

 

そこへ「上勝町」と書いたスクールバスがこちらに曲がってきた。

路線バスには見えない。中には乗客はだれもいない。運転手をじっと見つめても、こちらには気づいていない。

これはスクールバスだから違うだろう、とやり過ごした。

発車時間を過ぎてしまったので、ホテルに電話をかけて確認する。

なんと、スクールバスが路線バスを兼ねているのだそうだ。

乗り遅れてしまった。

事情を察して、ホテルの人が迎えに行きましょうか?と聞いてくれたが、車で往復40分はかかるので、さすがに好意には甘えられない。

お遍路だからと言って、お接待に甘えてばかりなのもよくない。

遠慮しなければいけないこともある、と思って「歩いていきますよ。いざとなったタクシーもあるし」と断った。

 

さて、どうするか、

と近くのスーパーのようなお店の前にあるベンチに腰かけて、地図を見ながら、思案していた。

と、すると、一人の地元の女性が、興味ありげに近づいてきて、だまって横に座った。

なんとなく世間話から、どこから来た、今こういう状況、という話になった。すると、

「じゃあ、送っていったるわ。ちょっと待っとき。」と言って、家に帰った。

待つこと10分。

赤い小さな乗用車が目の前にさっそうと現れた。ありがたく乗せていただくことにした。

車中話をすると、平日はパートで勤めていて、土曜日は自分の畑の手入れ、日曜は疲れるから何もしないで休んでいるそうだ。

どことなく個性的で味のある、おもしろい方だ。

自分でも「おもしろい、おもしろい」と運転しながら言っていた。

何が、と聞くと「この展開になったのがおもしろいのと、自分の住んでいるところから西へはめったに行かないので、こういうことがなければ行くこともなかっただろう」ということだ。

ご自分でも、この行動を楽しんでいるようだ。

なんと親戚が千葉に住んでいるそう。とある町でとんかつ店を経営しているそうだ。

自宅からもそう遠いところではないので、帰ったら、必ず食べに行くことを約束。店名もしっかり聞いた。

車は急峻な渓谷をどんどん奥へ入っていき、20分ほど走って、宿に到着。

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女性からお土産に、趣味で作っているというデコポンとミカンをいただいた。これを趣味で作れるとはすごい。

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お礼に納め札を渡したら、たいそう喜んでくれた。

普通の時ならば、何か別のお返しも考えるだろうが、お遍路さんとして、ご好意に応えるのは、この形が一番なのだろう。

相手の方も、徳を積んだ、という実感が出てくるのだろうか。

 

というわけで、ほぼ考えていた通りの時間に宿に着くことができた。かなり大きな温泉旅館。

なんと、旅館の4階は会社になっている。「いろどり」という、「葉っぱビジネス」で注目を浴びている会社だ。

昔、この上勝町の主幹産業であったミカンの栽培が悪天候の影響で壊滅してしまい、町は困窮していたそうだ。

これを救ったのが、役場に勤めていた、ある職員。

何もないが、豊かな自然だけはある、という点を逆転発想して、無尽蔵のようにある森の葉っぱを料理の飾り用にとして商品化して、売り出したのだ。

紆余曲折の結果、その葉っぱビジネスが大成功し、年商2億円の産業になった。それが町おこしの起爆剤になり、新しい発想で、豊かな自然を生かして、外から人を呼び込んだり、いろいろな工夫をして、町を盛り上げている。その拠点の一つになっているのが、この旅館と、4階にある会社だそうだ。

今は、その立ち上げた元職員が社長を勤めているとのこと。

この一連の話が映画にもなって、実際、上勝町の現地ロケが行われ、この旅館が撮影の基地になったらしい。

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そういえば、上勝町のことをテレビでも見たことがあった。

藻谷浩介さんという方が書いた「里山資本主義」という本が以前話題になったが、地域の埋もれている魅力を見直して、新しい発想で資源を活用し、住む人が生き生きと楽しく暮らしていく、という考えは、とても共鳴できる。

ここ上勝町でもそれが大成功しているわけだ。

実際、旅館で働いている町の人々も、楽しそうに生き生きして見える。

これはよい宿を選んだ、と思った。日曜の泊りなので、料金も2食付きで8000円台と、遍路宿にちょっと上乗せしたぐらいで、広い和室の部屋と温泉に浸かり、食事も地産地消の手の込んだ料理をいただくことができた。

 

グルメレポートは月並みなので、あまりやりたくないのだが、チェックインする前に宿の食堂でいただいた「山の幸定食」を撮影。

ほとんど、地元の食材で作られている。

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渓流を見下ろしながら、くつろいだ。

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今日はお大師様にはご勘弁いただいて、ちょっと温泉旅行モードにしようと思った。

しかし、温泉の中にある説明書きを見たら、この温泉は弘法大師が薬師如来のお告げにより見つけた温泉で、人々の健康のために、お大師様ご自身が開かれた、ということが書いてあった。

どこまでも、お大師様のご加護の手の平の上で、旅をさせていただいているんだなあ、と実感。

寝不足の感があって、疲れ気味だったのを、宿でくつろいで一挙に解消できた。

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明日は、車に乗った地点まで引き返し、そこから慈眼寺への歩きを始めることにする。

 

あなたとお会いできることを楽しみにしています。

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