(別格霊場 箸蔵寺)
朝から曇り。
午前中は100%雨の予報。
7時出発。
宿のご主人と記念撮影。
娘さんと、宿から見えなくなるまで、手を振って見送っていただいた。
今日は吉野川沿いにある、別格霊場の箸蔵寺へ向かう。
国道の途中に、中央構造線の馬路断層という標識があった。
日本列島の背骨ともいえる活断層の親玉、中央構造線が通っているのだ。
雨はすぐに降り出した。
ツバメが川の水面ギリギリに滑空していった。精悍な飛びっぷりだ。
しばらく歩くと、川幅の大きな吉野川が見えてきた。かなり深そうだ。
日本一広い河口を持つ吉野川なので、こんなに水量が多いのだろうか?
もう少し行くとその謎が解けた。
ここはダムだったのだ。
高低落差はあまりないダムだが、発電所があるらしい。
これで吉野川の氾濫が防げているようだ。
池田の市街を対岸に見ながら、川の北岸を東へ進む。雨は降り続いている。
途中池田ダムの横の公園で休憩を取る。
雨が降っていると、どうしても体力が消耗しやすく、休憩時間も長くなりがちだ。
遍路道に線路が横切っている。
線路内に入らないでください、という標識もあったが、ここを突っ切る以外に道はないので、安全確認をして渡った。
すぐ先に、ロープウェイ乗り場があった。
ロープウェイ乗り場を通り過ぎ、参道へ続く山道へ入る。
雨の中、ポンチョの内側に汗をかきながら登る。
霧も出てきた。
そういえば昨日、宿のご主人が、昔のお遍路さんは不治の病で見放されたり、伝染病にかかっていると誤解されたりして、最後の生き場所として遍路を廻り続けるしかない、という人も大勢いた、というお話をされていた。
そういう方が遍路道で息絶えて亡くなっていく。
その墓標があちこちの遍路道に残されていく。
お遍路には、そんな悲しい一面も昔はあった。
そんなことを考えながら、歩いていくうちに、
●箸蔵寺の山門に到着した。
いつもならば、ここでお寺に到着、となるのだが、箸蔵寺は違った。
まず、平らに整地された参道を行く。金毘羅神のお寺なので、鳥居が出迎えてくれた。
その先に、なんと約500段の階段が待ち構えていた。
ひたすら長い階段を昇りつづけて、やっとお寺の伽藍の場所に出た。
これが本堂、と思ったら、ここは護摩堂。
本堂へはあと、2百数十段、さらに石段を登らなければならない。
山門をくぐってから、何分経っただろうか、やっと本堂に着いた。
素晴らしく重厚な建築。
この本堂は昔から、ろうそくや線香、火の使うものを一切供えない習慣があるらしい。理由はお聞きできなかった。
箸蔵寺の起源は、
この地で空海が讃岐に鎮座されている金毘羅神のご神託を受けて、金毘羅大権現の像を刻まれて安置したことに始まる。
神の啓示を受けたわけだ。
金毘羅様は、船の航行安全にお力があるといわれ、金毘羅宮の奥の院になっているこの箸蔵寺に、漁師さんもよく参拝に来られるそうだ。
広大な境内の中には、お堂やお社が数多く鎮座されているが、雨が降っているせいか、不思議と他に参拝者はだれもいない。
ロープウェイが運行しているぐらいのお寺なのに、だ。
境内を貸し切っているような気分で、本堂前にてお参り。
下の護摩堂で、毎日朝と夕方に護摩を焚いているらしい。
父の戒名を書いて、護摩供養をお願いした。
実は、父と母の生家が両方とも、この箸蔵寺から10数キロの場所にあるのだ。
まだ親戚も近くに住んでいる。
今回、四国に来ていることを親戚には知らせていなかったが、急に近く来ていると連絡すると、気を遣わせることにもなるので、今回は寄らずに、お遍路を続けることにした。
そういうことで、7年前に亡くなった父も、箸蔵寺で供養してくれるとなると、喜ぶのではないか、と思い、護摩木を書いたのだ。
そういえば、父の命日は3日後の5月26日だった。
続いて、御影堂で、お大師様に勤行をさせていただく。
降りしきる雨の中、周りにはだれもいない。
お堂の中から、お大師様にじっと見つめられているようだ。
体が冷えてきたが、一生懸命お経を唱えた。
周りの木々も神々しく、歴史を感じさせる伽藍の数々に、圧倒される感じだ。
ここは天神社。
ちなみに、いきなり話がそれるが、
ここで、いつもお参りした後に納めている、「納め札」とはどんなものか、ご紹介しておこう。
これに住所、名前を書いて、言ってみれば参拝の記帳の代わりに、札を納めるというもの。
他に、お遍路に親切にしていただいた方に、この納め札をお渡しする、という使い方もする。
お寺へ納める方法はお堂の前に置いてある、こういう箱の中に入れる。
参拝を終え、リュックを担いで山を下りようとした時、まるで交代するようにロープウェイ駅から団体の参拝の方々が上ってきた。
1時間近く、だれも来なかったことは本当に驚いた。
参道を守護されている大天狗像と烏天狗像が見送ってくださった。
登ってきた道を戻り、ふたたび下のロープウェイ駅までたどり着く。
この近くのうどん店がおいしいと、宿のご主人にお聞きしていたので、冷えた体を温めるためにも、うどん店に入る。
宿のご主人おすすめの釜揚げうどんを注文。
食レポはしない主義だが、シンプルかつ大胆なうどんが出てきたので、これはぜひ紹介したい。
横の大きなとっくりに中には、うどんのだしが入っていて、自分でうどんに入れて、好みの味を調節する。
とっくりの持ち手は太い針金を曲げて作ってある。荒々しい。
おいしかった。
いざ、食べようとした瞬間、ハッと思い出して、写真を撮った。
出汁と麺がいい感じでからむ、というのだろうか、、、食レポをしようとすると、聞きなれた言葉しか出てこない。
とにかく、うまかった。おいしかった。
シンプルさが、作り手の絶妙なさじ加減をよく伝えている、というところか。表現がむずかしい。
地元の人が入れ替わり来て、黙々と食べている。
店員も淡々と動いている。飾り気がないが、地元の人がよく通うおいしい店、という感じがした。
以上 食レポ終わり。
ここから、また吉野川を逆にたどり、川沿いの宿へ向かう。
宿は、坂の上にあるので、近くの郵便局まで迎えに来てくれるという。
車で迎えに来てもらい、午後4時半ころ、宿に入る。
宿には男性2人と、ポーランドから来た年配の女性が1人泊まっていた。
女性は明日はタクシーで六十六番札所まで登るという。
荷物が重くて、平地と下りしか歩けないそうだ。
明日は札所めぐりに戻り、六十六番 雲辺寺に向かう。
八十八ヶ所の中で、もっとも標高の高いお寺だ。