伊予路を行く12 〔一瞬のご来光〕

更新日:

(石鎚山山頂)

4時15分起床。

節電のため、山荘の電気の供給は午後9時から午前5時まで止められている。

非常用の灯り以外は消えていて、暗い。

同室の4人は、ご来光を拝むため、4時半ごろには外に出た。

 

山荘の外へ出ると、大変な寒さだ。

せめてもの防寒具としてポンチョを着る。

空の上には、厚い雲が覆っているが、下界の瀬戸内海や西条の町は見渡すことができる。

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町の灯りが、まるで星屑の微粒子のように集まり、暗闇に街の輪郭をくっきりと浮かび上がらせながら煌めいている。

 

風が山にぶつかって出来るのだろうが、周りの山の頂から雲が天に向かって垂直に立ち上がっている。

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その形を見ていると、空中に神や仏が浮かんでいるように見えてくるほど、神秘的だ。

 

空の一角が赤くなっているが、日の出時刻を過ぎても、まだ太陽は顔を出さない。

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同室の4人とお遍路2人組の女性がご来光を待っていたが、あきらめて山荘に引き返していった。

気温の低さだけならばまだ我慢できるが、体ごと飛ばされそうな強風が吹いていて、体温をどんどん奪っていく。

手の先が冷たくなりはじめる。

かなり寒さなので、一旦山荘に戻る。

もうご来光は見れないか、と思ったが、もう少し待ってみようと思い、だれもいなくなった神社の脇の東に面した所に再度立つ。

 

すると、最初明るかった所よりも右寄りの方から、太陽の光が漏れ始めた。

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そして光の筋がいくつも現れて、山々や下界の町を照らし始めた。

 

ほんの1、 2分の出来事だった。

 

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それまでぼんやりと明るい程度だった空が、雲の隙間からの光線によって、またたく間に黄色く、赤く色づき始めた。

 

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毎日、日の出の太陽の美しさに感動していたが、この美しさはまた次元が違う。

こういう時に人は、自然の中に神や仏の存在を感じるのだろう。

 

役行者、そして空海が、この地を特別な修行の拠点にしていたことも、この風景を見ると、理屈抜きに合点がいくような気がする。

われわれ凡夫でも、高い山の上にいると意識がクリアになり、心で念じたことがテレパシーのように空を伝って遠くまで届くような錯覚を覚える。

 

寒いながらも、感動の日の出体験は完了した。

しばらくして、神社の拝殿で朝拝が行われる。

同室の4人組の人たちは、日の出を諦めてから、また布団の中に入ってしまったので、朝拝に参加したのは自分を含め、5人となった。

御神体である3つの御神像に向かって、特別な大祓詞をたどたどしくも全員で声を合わせて述べ、全員が拝殿の中に入って玉串を奉奠させていただいた。

最後にその御神像をじかに触れさせていただき、願い事を祈願させてくれた。

この三体の御神像にはそれぞれ意味があり、真ん中の珠を持つ御神像は願望成就を、向かって右の鏡を持つ御神像は家内安全を、向かって左側の剣を持つ御神像は災難消滅を叶えてくれるという。

恐る恐る三尊に触れさせていただいた。神妙な気持ちになった。

 

その後、他の人は朝食を山荘でとったが、ロープウェイを下りて、朝1番の下りバスに乗りたかったので、おにぎりを用意してもらい、食事している皆さんにお別れを言って、下山した。

 

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山頂からしばらく下るとまもなく気温が上がってきた。

ものすごかった風も嘘のようにおさまった。

 

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昨日はこの登山道で沢山のハイカーとすれ違ったが、今日は朝早いので、ほんの数人の人たちとすれ違うだけだった。

 

キツツキが木を叩く音が途切れ途切れに聞こえる。

音のするすぐ近くまで来ても、かまわずにたたき続けている。

 

登山道入り口まで戻ってきた。

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途中、成就社に着いた時、時計を見ると、ロープウェイの出発まであとわずかになっている。

これは走らないと間に合わない。重いリュックを背負った状態で、本当は走りたくないのだが、ロープウェーに乗らなければ、下りの次のバスを3時間待たなければならなくなる。

やむを得ず坂道を走って、なんとかギリギリ間に合った。

下りのロープウェーには他に誰も乗っていなかった。

 

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昨日、修験行者がご法楽をしていた天狗堂に、天狗の説明が書いてあった。

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深い沢をバスで下りる。

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下りのバスの中で、山荘でいただいたおにぎりの朝食を覚ませ、昨日タクシーに乗り込んだ地点まで戻る。

 

ここからは、六十五番札所までは約40キロの歩きとなる。

山頂の山荘は水を節約していたので、もちろん風呂はなかった。

朝も慌ただしく、顔も洗っていない。

道後温泉で温泉に入らなかったこともあり、1キロちょっと行ったところに「武丈の湯」と言う天然温泉の入浴施設があるので、そこに寄ることにする。

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農協が経営していて近くの有名な鈍川温泉のアルカリ性単純泉を運んできて、ここで入れるようにしているらしい。

掛け流しではないが、れっきとした天然温泉だ。

内部は新しく、温泉以外にもサウナジェットバス付などいろいろな風呂が揃っていた。

一時間半ほどゆっくりして、また歩き出す。

 

しばし、国道を歩く。

 

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西条市の川はどこも澄みきっている。

これは住宅街を流れる小さな川。下の方に大きな魚がいる。

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今までは、人が少ない田舎は川が澄んでいて、人が多い町中は透明度が落ちるのが常だったが、西条市は石鎚山系から流れ出た水が直接流れ込んでいるので、街中でも透き通るような水が流れている。

西条の人は幸せだ。

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今朝は、あの山の、また奥の遥かに高いところから、こちらの街を見ていたわけだ。

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風呂上がりだと、何となく力が入らない。

筋肉がリラックスしすぎて歩きモードにならないのだろうか。

 

十割そばのお店があったので昼食をとる。

蕎麦専門店というのもこの辺では珍しい。

 

旧道に入っても、けっこう車が多い。意外と皆、飛ばしている。

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お遍路道がそのまま商店街アーケードになっていた。

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懐かしい感じの店が並ぶ。シャッターが閉まっている所も多い。

 

いい天気でかなり暑くなってきた。午後三時の気温は25度だった。

今日の朝、山頂は7度だったので18度の気温差だ。

また国道に戻り、ダラダラ坂を上った。ここを超えると今日の宿に着く。

 

ゆるい峠を登りきると、瀬戸内海がまた顔をのぞかせた。

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午後4時半ごろに宿に到着。
今日は長野県から来られた男性が泊まっていた。

十年前に一度通しで廻っていて、今回は2回目らしい。

宿は古いが、とても親切で行き届いている。食事もおいしい。

設備の古さは、親切な対応で十分カバーできるものだ。

明日は六十五番札所へ向かう。

 

あなたとお会いできることを楽しみにしています。

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