あの言葉が、時計の針を巻き戻す
「あの人の、あの一言が、ずっと心から離れない」
だれにでもあると思います。
その言葉を思い出す時、心は時空をこえて、その時の場面へ飛んでいきます。
そして、思い出すたびに何十回、何百回、と心の中で繰り返されます。
たとえば、「あなたが大切だよ。」
という言葉は、思い出すたびに心の支えになってくれます。
あるいは、「おまえなんか消えてしまえ!」
という言葉が心に残ってしまったら、それを思い出すたびに辛くなります。そして心に暗い影を残します。
言葉は人を勇気づけることも出来れば、傷つけてしまうこともあります。
ひと言の重み、というものは、なんと大きいのでしょう。
「言葉」ってなんだろう?
かた苦しくいうと「言語」が正確かもしれませんが、ここは「言葉」としておきましょう。
そもそも、言葉は何の為にあるのでしょう。
ひとつは、考えを「伝える」ためです。
言葉をしゃべったり、書いたり、読んだりすることで、伝えたい内容をキャッチボールできます。
もう一つは「共有する」ためです。
ある言葉を受け取った人たちが、同じ考えを同時に理解することができます。
もし言葉のない世界ならば、お知らせ告知もできませんし、ましてや、LINEやメールで一斉連絡することもできません。
ようするに、考え自体はアナログモードでも、言葉によって記号化(デジタル化)することで、コピペで共有したり、ファイル交換したりできる、ということです。
(岡本太郎さんは、そのアナログモードな想いを「ゲイジュツは爆発だ!」とばかりにアート作品で表現したんでしょうね。。、、話と関係ないか。)
言葉は、すごい役割を持っているんですね。
また、別の役割として、「ヒトは言葉で思考している」という説もあります。
そう言われてみれば、ものを考える時、心の中で一人でしゃべっていることに気づきませんか?
私たちは頭の中で、五感の感覚やイメージを言葉に換えて、名前を付けて、心の引き出しに整理しているのかもしれません。
ちなみに、
赤ちゃんが初めて言葉を話すきっかけは何でしょうか?
それは、お母さんとの一体感が、他者(主にお父さん)によってジャマされること、それによってお母さんを呼ぶために言葉が生まれる、と精神分析の本には書かれています。
母親と一心同体だと思っていた赤ちゃんが、言葉によって一個の人間として目覚める、ということですね。
言葉とうまくつきあうために
言葉に大切な役割があるのはわかりました。
でも、それだけで言葉と上手につきあう術はわかりません。
どんな言葉を受け取っても、自分にとって実りあるものにするためには、言葉のもっている、ある性質を知ることが大切です。
言葉のある重要な性質。それは、
言葉は「代用物」ということです。
たとえば、
ある人が「空を眺めるのが好き」と言った時、聴いた人が、さわやかな日の出の空を想像するかもしれません。しかし言った人は、夕ぐれの空を眺めるのが好きなのかもしれません。
言葉という記号を受け取っても、受ける側のフォーマットが違えば、ディスプレイにはちがった画像が写る、ということです。
言われてみれば当たり前の、そんな言葉の性質を忘れて、言葉そのものから過剰に影響を受けていることはないでしょうか?
マジメな人ほど、その傾向は強いようです。
そうならないためには、言葉そのものだけを鵜呑みにしないことです。
言葉の周辺にある情報も併せて受けとめることが大切です。
それにはまず、
その言葉が発せられた前後の状況を考えましょう。
また、言った人が抱えている事情も、ある程度想像できるかもしれません。
それと、言った人自身の「人となり」「クセ」を忘れないことです。
普段なら出来ても、不意打ちの言葉を浴びた時は、言葉そのものが、ストレートに受けた人の心を直撃するのです。
言葉自体は本質でないということと、周辺の事情やなりゆき、想いを含めて考えれば、どんな言葉でも落ち着いて受けとめることができます。
これは、事前の心がまえだけでなく、過去に言われた一言に囚われている人にも有効です。
その時の状況を思い返して、言葉から受けた印象を書き換えることは、じゅうぶんに可能です。
大切にしたいあの言葉
宝物のようなひと言を、ずっと心に留めている人は幸せです。
思い出すだけで、言ってくれた人の想い、表情、いろいろなことを記憶から引き出してくれます。
大切な言葉は、いつでも取り出せるように、心の引き出しの一番上の所にしまっておきましょう。
そんないい言葉は、今までもらったことがない?
そんなことはありません。
それは、あなたが気づいていないだけです。
心の中につらい記憶を抱えている時は、そちらに意識が偏ってしまって、いい言葉の記憶に焦点が合いにくいのです。
今は、本当にたくさんの言葉に触れる機会がある時代です。
たとえば歌の歌詞とか、映画のワンシーンとか、一見、不特定の人たちに向けたようなメッセージの中に、自分のために送ってくれた、と感じる言葉が必ずあります。
あなたが、受け入れる準備さえしていれば、それはひょんなところから、顔を出してくれるものです。
ぜひそれを見つけてください。
かならず見つかりますよ。
おわり