土佐路を行く⑬ 〔さらば土佐の海よ〕

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(土佐清水市から三原村)

日の出の時刻を45分過ぎて、ようやく雲の間から太陽が昇った。

さすがに今日は雨はないだろう。

 

宿の部屋から見た景色。目前に山が広がっていて気持ちよかった。

 

7時30分出発。

昨日と打って変わって、おだやかな波の土佐清水港の横を歩いていく。

 

この看板をよく見かけるが、どういう意味なのだろう?

 

なんとなく記念写真。6キロやせた。

 

8時30分の開館を待って、ジョン万次郎資料館に立ち寄る。入場料は400円。

 

ジョン万次郎の生涯について、詳しく展示がしてあった。

万次郎は漁師を志していた。

遭難してアメリカの船に救助され、そのままアメリカに渡り、勉学に励んだ。

足摺岬沖ではクジラ漁が盛んだったが、幕府の命令で、クジラに銛を打つ大事な役目は、室戸岬の漁師と決められており、足摺岬の漁師はどう頑張っても銛打ちにはなれなかったそうだ。

江戸時代末期当時はアメリカも盛んに捕鯨をやっていたようだ。

アメリカでは実力さえあれば誰でも活躍できることを知り、救助された船の船長のすすめもあってアメリカでの生活を選んだ。

その後いろんな波乱万丈の日々を経て、日本に帰り、島津斉彬、坂本龍馬、その他、幕末から明治にかけて活躍した多くの人物に外国の情報を伝え、咸臨丸に通訳として乗り込むなど、日本とアメリカの橋渡し的な役目を行った。

 

万次郎が鳥島で救助されたアメリカ船の模型。

 

ジョン万次郎、気になる男だ。

昔から、冒険家にあこがれるところがあった。

植村直巳さんなど、一人で探究心のおもむくまま、未知のことにチャレンジするような人に惹かれていた。

スケールは小さいかもしれないが、この遍路旅も、今まで殻を破るために未知のことにチャレンジする、という気持ちで臨んでいる。

 

30分ほどで見学して、また遍路道に戻る。

 

雲から晴れ間が見えてきた。

この辺で土佐の海とはお別れになる。

 

思えば、10日以上、海を見ながら歩き続けた。

 

これからは進路を変え、北東方向の山の中へと入っていく。

 

途中、農家の人の軽トラの中に犬がいた。

なんと数十年前に実家で飼っていた犬とそっくりに見えて、思わず写真を撮らせてもらう。(よく見たらそれほど似ていなかった?)

 

名前はリュウというらしい。

リュウのお父さんと色々と話す。

昔は東北新幹線の送電設備の工事で、栃木の方まで出稼ぎ行っていたそう。

ここら辺の米は一番うまい。今度来たら泊めて食わしてやる、と言って家の場所を教えてくれた。

今度また、来れる事があるだろうか?

田植えの時と稲刈りの時はやっぱりものすごく忙しいらしい。

オクラも一緒に育てているので大変だそうだ。しばし話をさせてもらって別れる。

昨日までの雨で、川の水も増えているようだ。
登り坂だが、きれいな舗装の道路が続く。車はほとんど通らない。

 

久々に見る山深い緑の風景。

 

1時間歩いても、車は一台も通らない。一本道なので、間違えるはずもない。

これだけ大きな渓谷の中で自分以外誰もいない、というのはぜいたくな空間だ。

昨日会った茨城の彼だったら、気持ちが折れてしまう、というかもしれない。

 

道路のすぐ横に滝が落ち、下の方からは、川がたくさんの水をたたえて、ゴォーッと音を立てている。

 

こういう道路の上で、生き物が死んでいるのをよく見かける

小さな生物にとっては、アスファルトの道路は、死の世界なのだろう。

舗装道路は山の自然を分断してしまう。

 

今まで登ってきた谷が幾重にも折り重なり、海はもはや、はるか遠くへ見えなくなってしまった。

 

昔の人は、だれもいない山を歩く時、山賊が怖かったろうな、と、ふと思う。

 

川が道に近づいている地点で昼食。

 

少し肌寒く感じるのは、標高が高くなったせいだろうか?
雲の切れ目から太陽が顔を出すと、あたたかさが戻った。

傾斜はゆるくなったが、ずっと曲がりくねる登りの道が続く。

突然、高性能スピーカーで再生したような鳥のさえずりが、すぐ間近で聴こえてきた。

急いで録音しようと思ったが、もう鳴いてはくれなかった。

自然のタイミングは一期一会だ。

 

午後1時半、やっと三原村の境界につく。標高は、646メートル。けっこう登ったものだ。

下り坂から、遠くの山が見える。霞んで見えるのは、愛媛の山々だろうか?

 

海から約5時間かかって、山の反対側の里に降りる。

田んぼに勢いよく水が流れ込んでいる。

 

山を登り始めて里へ下りるまで、お遍路さんはおろか人1人も会わなかった。

そういうお大師様のコーディネイトの日なのだろう。

山の緑と水を張った田んぼ。何の変哲もないのだが、綺麗でつい撮ってしまう。

 

少し迷って、4時半ごろ今日の宿に到着。

何か外見が少し変わっている。

NPO法人が運営する宿と書いてある

この建物は宿の人の自作なのだろうか。
風呂も手作り感いっぱいで、特殊な形をしていた。洗い場は体の幅ぎりぎりぐらいしかない。すぐ下に浴槽があり体を洗うと簡単に泡が入ってしまう。

家の中には蚊が何匹も飛んでいた。すかさず蚊取り線香を持ってきてもらう。

今夜は蚊取り線香の煙が充満している中、眠ることになる。

 

今日の同泊は、なんと今回で十週目の逆打ち中の先達。

白いヒゲが風格たっぷりの方だが、いろいろと気さくに話してくださった。たいていの遍路道のことは熟知されていた。

今日、自分が通ってきた道はあまり歩く人はいない、とのことだった。

空海の修行の聖地を訪ねたいならば、といくつかのおすすめの場所も教えていただいた。

特に六十番横峰寺の星ヶ森は行ってみたらいい、と言ってくださった。

 

今日は歩きに徹した一日だった。蚊取り線香の煙の中で、眠りについた。

 

あなたとお会いできることを楽しみにしています。

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